【コラム】考察・検証!コンサルファーム卒業後のキャリア 第3回 コンサルタントが起業に失敗する理由
【連載】考察・検証!コンサルファーム卒業後のキャリア 本連載ではコンサルファームで活躍したコンサルタントが、ファームを卒業後、そのスキルを活かし、どういうキャリアを歩むべきか?を考察検証していきます。 第1回 コンサルスキルを活かすために 第2回 経営企画職への転職 第3回 コンサルタントが起業に失敗する理由 第4回 コンサルが起業に成功しやすい理由 |
第3回 コンサルタントが起業に失敗する理由
ポストコンサルタント起業の成功確率は高いと考える。
ポストコンサルキャリアを考える2つ目は「起業」。コンサルティング会社に入る前から「将来は起業をする」と決意し、経験を積むためにコンサルティング会社を志望する人も多い。このキャリの考え方は、私は「アリ」だと考えており、また、起業が成功する確率は、普通の起業家よりは高いと考えているし、応援している。当社の別事業として、フリーコンサルタントと起業をマッチングする「コンサルサーチ」を営んでいるのだが、そのコンサルサーチのミッションの一つは「コンサル業界から起業家を輩出する支援をすること」だ。
しかし敢えて、コンサルが起業に失敗する理由を考える
時々「コンサル業界からたくさん起業家が生まれればいい」という話をすると、怪訝な顔をし「コンサルが起業なんてできない」という人もいる。「コンサルタントは起業家に向いていない」という意見がある。
コンサルは口だけで、実行しないというイメージがあるからかだろうか?すごく一般化されすぎていると思うし、コンサル出身者が既にいくつも大きな会社を作ってる「事実」に基づかない発言だとも思う。だが素直に、彼らの話に耳を傾け考えてみる必要もあるとも思う。それをまとめてみたい。
理由1: コンサルファームは大手企業を相手にする。ベンチャーとの経営感覚が違う。
コンサルティングファームの多くは、コンサルティング予算を確保できる「大企業」を相手にする。大企業とベンチャー企業を比較してみると違う点がある。なので、経営の考え方や、事業計画の立て方は大企業のそれとは変える必要がある。
● 大企業は新規事業への投資額が大きい。ベンチャー企業は「手元資金」と「自分の体(時間)」だけで始める。
● 大企業は知名度があり、広告宣伝費が潤沢に使える。全く逆のベンチャー企業。
● そのため、よいものを作っても製品・サービスが広まりにくく、キャッシュが回り始めるまでに時間がかかる。ベンチャーはそれに耐えられない。
● 大企業はステークスホルダーが多く説明のための「論理」にこだわる。ベンチャー企業は「とりあえずやってみる」ことも大事。
こういった違いを考慮し、起業するスタートアップの事業計画を作るべきである。そこには、少し考え方を変える「センス」が必要。この思考の転換がうまくいかず、大企業的な「楽観的な」新規事業の事業計画を立てて、事業をローンチするコンサル会社出身の起業家を見てきた。
ちなみに、ベンチャーにとって事業計画なんて意味はないという人もいる。私も、コンサルティング会社がクライアントのために作るような、ロジックが緻密に考えられた、詳細な事業計画はいらないと思う。一方、キモとなる部分を抑えた、ストーリーのある事業計画は必ず必要だと思う。たとえそれが荒くてもいい、資料化されていなくてもいい。経営者の頭の中にあればよい。特に顧客獲得にかかる時間と費用はそこそこ正確に見積もるセンスが必要だと考えている。
理由2: アドバイザーの経験はあるが、意思決定者としての経験は少ない。
「アドバイスをすること、提案をすることがコンサルタントの仕事である。意思決定の経験は少ない。だからコンサルは失敗する」という人もいる。この意見を経験豊富なコンサルタントにぶつけると「クライアントの立場に立ち、意思決定者の立場で考えるため、問題にならない」となるが、それに対しては「自分の立場を賭けて意思決定をした経験はないでしょ?」など、堂々巡りになる。
意思決定をこなすことにより、ビジネスパーソンとしての価値は高まるとは思う。ただし、経営者にならない限り、意思決定をする機会はなかなかないのは当然であり、起業する前に意思決定に慣れている人なんていない。これはコンサルタントに限らずだ。だからあまり意味のない議論だと思う。
理由3: 戦略を実行につなげる「実行力が弱い」。
さらに「実行が弱い」という意見。戦略を正しく検討し、正しく意思決定をしたとしても成果を創出するスキルは別に必要になるということだ。コンサルタントは理論を振りかざして、口だけというイメージが強いようだ。さらにここを二つに分けると、組織を動かすこと力がないとか、営業センスがない人が多い、というような論点を述べる人が多い。
「組織を動かし、成果を創出する経験」の欠如。
起業を立ち上げたばかりの時は「起業する自分」の優秀さでどうにかなる。しかし、社員が増え、人をマネージするようになると、自分が優秀かどうかは関係ななくなる。いかに社員をモチベートし、成果を創出するか?という点が重要になってくる。しかし、コンサルティング会社の文化になれてきたポストコンサルタントは人を動かすのが得意でない人もいる。
コンサルティングファーム特有の文化で、通常の組織を率いようとしてもうまくいかないことは事実だと思う。なぜ?を徹底的に追及する「つめる」文化を、そのまま組織に持ち込んでもうまくいかないことも多い。この点を考慮することは重要だと思う。
営業スキルの欠如。
コンサル会社は、偉くなってから(パートナーと呼ばれる職位になってから)営業担当者となる。これは、事業会社とは逆だ。対面営業が必要でないITを使ったサービスだと、そこまで問題にならないかもしれないが、対面営業では常に営業力がためされる。いくら秀逸なビジネスモデル、サービス、製品を考えついても、「売る」ことができなければどうしようもない製品は多い。営業力を持ったポストコンサルタントに会うと、非常に化膿性を感じる。それぐらい営業というのは起業にとって重要な要素だ。
これらの理由は、特にコンサル出身者だからというわけではない。
起業に必要なことは「戦略をきちんと考え、正しく意思決定し、組織を動かし成果を出すこと」である。これができれば、起業家として成功するのは当然だ。
すでにお気づきだろうが、上に挙げたつの「成功しない理由」は別にコンサル出身者だからというわけではないかもしれない。たしかに事業会社で営業をしていた人は、コンサルタントより営業力があるから「売る」ということはポストコンサルタントより得意であろう。また、組織を率いることにしたって、比較的ビジネススキルの高くない人材をまとめ上げてきた経験などはあまりないかもしれない。
ただ、コンサルティングファームを経ての起業というのは、それを上回るメリットがあるのも確かである。次回は、コンサル出身者は一般的な起業家より成功すると思う、個人的な理由を述べたい。
(20014年7月20日 株式会社ワークスタイルラボ 真貝 豪)